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ツアー登山2009


北海道 大雪山系での山岳遭難 (2009年夏)


■北海道 大雪山系で 痛ましい山岳遭難があった。

現時点でも 様々な情報が伝えられているが、背景的要因を含めた 山岳遭難についての詳細が明らかになるのは 相当先のことであって、事故の痛ましさを思えば 断片的情報を元に あれこれコメントするような気には ならない。

およそ 大自然のなかでは 人間の存在などちっぽけなもので 私の 乏しい経験の中でも、山中では 人智を越えた 想像以上の場面に 出くわすことは 往々にしてある。

もとより 大自然相手では 100パーセント絶対安全などということなどあるはずもない。

山の中では 何が起こるか分からないので 明日は 我が身かもしれないと自戒し 過去の遭難事例を繙いて どうすれば少しでも 危険を回避することができるのかと 常に考え行動する 事ぐらいしか 私にはできない。

■過去の山岳遭難について いえば 大正12年1月の槇 有恒氏一行の松尾峠での遭難の昔の時代から 色々な 手記、記録、報告などが公表されて 書籍、 山岳雑誌、会報とか、「山岳遭難事故報告書」などにあるほか、 春日俊吉氏、 小島六郎氏などから 山岳遭難を題材にした数多くの著作が出ている。

最近の山岳遭難では 一連の「ドキュメント ○○遭難」シリーズなどがある。

『ドキュメント気象遭難 』羽根田 治著2003年6月 山と溪谷社
『ドキュメント滑落遭難 』羽根田 治著2008年7月 山と溪谷社
『ドキュメント道迷い遭難』羽根田 治著2006年1月 山と溪谷社
『生還 山岳遭難からの救出 』羽根田 治著2000年11月 山と溪谷社
『ドキュメント雪崩遭難 』阿部幹雄著 2003年2月 山と溪谷社

■そのなかで 『ドキュメント気象遭難
「夏・台風・トムラウシ山−低体温症」94〜144ページがある。

愛知と福岡の2パーティー、2名が遭難死亡した2002年7月のトムラウシ山


この取材にあたって著者 羽根田 治氏は 愛知のパーティーでは
「亡くなった方の夫が、「こういう事故を繰り返さないためにも取材に応じてあげてくれないか」と説得してくれたようだった。」
と 協力的な対応で 生存者など関係者からの直接インタビューができた。

ところが もう一方の福岡パーティーからは 全く反応がなかったという。

というのも この本が出たのは 2003年で翌2004年旭川地裁で 福岡パーティーのガイドだった方への 地裁判決がでた。

2002年は十勝岳、黒岳での遭難もあったが、2004年には、1999年の羊蹄山、2002年トムラウシ山のツアー登山での事故で地裁判決出たのである。

愛知と福岡の二つのパーティーで 取材の対応に大きな差が出たのも この裁判があったためだろう。

一方は羽根田 治氏の取材に応じ 真実がかなり明らかになり 事故の再発防止の手がかりになりそうな ことも 少しは明らかになった。

しかし羽根田 治氏の努力にもかかわらず 福岡のパーティーでは 責任を追及される関係者からの取材は全く塞がってしまった。

山岳事故で刑事責任を追及することには 色々な意見があるだろうが、責任を追及すれば関係者の口は全く塞がってしまい およそ事故の再発防止という点では マイナスになる。

■この点 アメリカのNTSB(国家運輸安全委員会、National Transportation Safety Board)は 航空機などの事故の再発防止を主眼に 真の原因を追求し これまでに 「空の安全」に 大きな寄与をしてきたといわれている。

パイロットへの個人責任の追及より事故の再発防止に力点を置くことには 違和感もあるが 事故の教訓を生かすことができる。


http://www.ntsb.gov/

勿論 一般的な刑事犯罪の世界では 責任追及は当然だろう。

■しかし予見不可能な想定外な事が起こるのが山の世界。
複雑多岐な背景的要因がある山岳遭難で 勧善懲悪的な時代劇ドラマのように「これにて一件落着」として、報復的な懲罰を与えるというのは
事故の再発防止の観点からは 決して いい結果に結びつかない事が多い。


登山も含め 世の中 なんでも 訴訟社会ではあるが、昨今では 医療訴訟を恐れて産婦人科医の医師のなり手が少なくなったとか。

(『登山の法律学』)

ツアー登山などでは 民事訴訟での高額の判決、和解も出てきている。近頃 山岳会や山岳部の活動までもが 全体的に萎縮し 低迷してきているのは なにかと法的な責任追及を恐れる 意識が底辺にあるのも一因のような気もする。


2009年のトムラウシ山遭難事故も 多分 関係者の口は 重く、『ドキュメント気象遭難 』として 遭難事故の再発防止に つながるような真実解明は かなり先のことであろう。

ツアー登山

失敗は したくない



■失敗は したくないと思っていても、やはり うまくいかない。

一度でも失敗すれば また同じ過ちを 繰り返さないように、過去の教訓を活かすことができれば いいに決まっているのだが。。。 

二度あることは やはり三度ある。

失敗を活かすのは そう簡単なことではない。

■といっても 冷静に 考えてみれば、過去の失敗から はたして どれほど 本当の教訓を学んでいるのだろうか?

表面的 直接原因だけの 失敗の反省でなかったのか?

もっと 本質的な 間接的 背景的なものを含めての 失敗の真の原因にどれほどせまって 検証できていたのだろうか?

考えれば 考えるほど 難しい問題が一杯ある。

失敗知識データベース



■「この事故には たくさんの ”たら” ”れば” が存在する。
が しょせんは常行が言うように、結果論に過ぎない。
起こってしまったことに対し、第三者は何とでも言える。」
(注 常行は人名 佐伯常行氏 内蔵助山荘オーナー)
「秋・太平洋沿岸低気圧 立山−凍死」
『ドキュメント気象遭難』羽根田 治著 2003年6月初版 山と溪谷社


「山岳遭難という悲劇を繰り返さないためには、過去の事故を検証して得た教訓を生かすことだと、私は信じている。」

『ドキュメント気象遭難』羽根田 治著 2003年6月初版 山と溪谷社



■山岳遭難事故から得られる教訓。

羽根田治氏によれば 多くの遭難事故の取材は困難を極めたという。 事故の原因を突き止めようとしても なかなか 真実を解明するのは難しいのである。

その点 自分自身の過去の失敗については なぜそうなったのか。
 嘘 偽 隠し事などない 真実を 本人が一番 知っているので 教訓として 活かしやすいと思うのだが。


真実を隠す 偽の姿勢では 貴重な教訓は得られない。

■もっとも 一人の人間の失敗談など 所詮たかだか しれていて ほんの数少ない経験だけに そう多くの教訓を得るには迄には いたらない。

少しでも 多くの経験をするということは それだけ もっと多くの危険に晒されてこそ できることなのだろう。

より少ない経験で より効率的に より安全に 経験を活かすことはできるのだろうか?

そもそも より効率的となれば 多分山へ行かない方が いいのかもしれない 。

効率など悪くて 鈍足でも いい。

■本当の正解はよくわからないが、 少なくとも いま自分にとって最低限できることは 大自然に接する 謙虚で偽りのない姿勢も持ち続けることしかない。

ささやかな 自分自身の経験からえた 貴重な教訓は次に活かすようにしておくにためには 必要なのは 自然に接する態度として

侮らない 謙虚さ
嘘のない 誠実さなど ではないかと思う。

あせらず
あわてず
あなどらず

敗退

ツアー登山運行ガイドライン

北海道でのツアー登山の遭難事故を教訓に 社団法人 日本旅行業協会は ガイドラインを見直した。

ツアー登山運行ガイドライン(社)日本旅行業協会 (平成21 年9 月1 日作成)

以下 以前から問題とされていた点。業界として公式に認めているのは評価していいが、今後は大人数は 止めて、もっと 少人数化を検討すべきだと思う。
★長蛇の隊列が 渋滞の原因となること

「登山道は、一般登山者と協調し利用しなくてはならない。大人数が一列縦隊で先頭から最後尾まで途切れなく50メートルもつづいていたら、一般登山者に及ぼす迷惑は計り知れないものになり、ひいては団体登山の批判につながる。」

★営業小屋でない避難小屋を 場所取りしていまう やりかた。

「また、避難小屋としての役割を果たしているような非営業小屋の利用については、他の登山者に迷惑をかける行為はやめるべきである。例えば、収容人数の半分をしめるような集団での利用や、占有のための要員による前もっての場所取りのような行為は避けなければならない。このような避難小屋利用を念頭においた運行に際しては、参加者及び引率者全員を収容できるだけの野営装備を持参し、小屋の利用を前提にしなくても運行できるよう配意すべきである。」




<ツアー登山運行ガイドライン>
概 括
このガイドラインで述べる「ツアー登山」とは、無雪期における「登山」、「トレッキング」、「ハイキング」等、縦走登山から軽登山まで、自然界において行動することを主たる目的とする日程が含まれている旅行企画を言い、観光庁及び各都道府県において旅行業登録をしている旅行業者が取り扱う、本邦内における「募集型企画旅行」、及び「受注型企画旅行」を言う。「手配旅行」及び宿泊クーポン、乗車券類等の「単品販売」はこれにあたらない。なお、海外におけるツアー登山の運行にあたっても、本ガイドラインを参考とし、当該国の現地事情や条件等に照らして適正な運行をおこなうべきである。

当協会は、このガイドライン策定にあたり、無登録業者等における「営利を目的とした団体登山」は、「ツアー登山的」ではあるが、本来旅行業法に反するものであるからその是正をつよく求めるものである。
旅行業者が取り扱う本邦内における「ツアー登山」への参加者は、年間およそ30万人(平成19年中)にのぼる。近年は、中高年層の登山人気と自然愛好への意識の高まりとともに、ツアー登山や自然とのふれあい企画が一般に受け入れられる状況となってきた。
それにともない、登山道での転倒や転滑落、気象判断に関わる死亡事故、行方不明等、深刻な事態に及ぶ事例も増加している。また、自然地域への集中的入域が、少なからず自然環境に影響を及ぼしていることも知っておくべきである。このガイドラインは、(社)日本旅行業協会に加盟する会員会社が、ツアー登山を取り扱うにあたって配意し、遵守しなければならない内容をまとめたものである。顧客の「安心感」を高めることは、企画運行の「安全度」を高めることである。


T.安全対策
(1) 企画立案段階においてコース内容を充分に把握すること。
(2) 当該コースを実地調査し、直前調査すること。
(3) 引率者の技量及び経験度合いを確認し、管理監督すること。
(4) 募集段階において適切な情報提供と危険の告知をすること。
(5) 危急時対応として登山届を提出し、連絡方法を確保すること。
(6) 取扱会社として適切な保険に加入すること。
(7) 引率者の外部委託は適切におこなうこと。
(8) 参加者の健康状態把握に努めること。

U.人的対策
(1) 引率者の人数は、参加者の人数を考慮し、安全配慮の観点から適正なガイドレシオにおいて配意すること。
(2) 現場において参加者をみだりに自集団から離散させないこと。(3) 離団希望者に対しては、安全配慮の観点から適切な判断を下すこと。
(4) ツアー登山の造成にあたり、関係法規及び安全登山、自然環境保全に関係する知識を得ること。

V.装具対策
(1)引率者が所持すべき装具は、コース内容に応じて必要不可欠
にして充分に現場対応力のあるものとすること。
(2)参加者に対しても、コース内容に応じた装具を所持するよう
案内すること。
W.顧客対策
(1) 参加希望者に対して、コース内容は適切に案内すること。
(2) 募集広告は、旅行業法に基づき適切な表示であること。
(3) ツアー登山特有の苦情に対して適切な対応をとること。
X.環境対策
(1) し尿処理に関わる問題について案内すること。
(2) 登山道及び山小屋の適切な利用について案内すること。
(3) 訪問地の環境保全に充分留意すること。
Y.事故対策
(1) 予防はもちろん重要だが、事故発生時の対策と事故原因の究
明を徹底すること。
(2) 企画立案段階から、「安全配慮義務」を果たすこと。
(3) 行動中の団体編成に充分留意すること。
(4) 疲労困憊の参加者を漫然と歩行させないこと。
以上

<ツアー登山運行ガイドライン>
本 文
第T章 安全対策
(1)企画立案段階におけるコース内容の把握(実地調査、直前調査等)
取扱会社には、企画立案段階から「安全配慮義務」がある。
とくに募集型企画旅行においてそれは明らかであるから下記に注意すべき要点を例示する。
@ 目的地についてすでに充分な知識があること
A スタッフが実地調査をすでにおこなっていること
B 現地からの直近情報を入手すること
C 参加者が余裕をもって行程を消化できる具体性のある計画であること
D 避難ルートの想定や、連絡体制、レスキュー体制等、危急時における具体的対応ができること等々である。

さらに下記に例示した要点を徹底履行することは、ツアー登山の安全運行のために重要なことである。

@ 直前情報収集の重要点は、出発数日前からの気象変化の予測であり、登山道の状況把握である。また登山ルート上において利用できる便所の有無と有人無人の山小屋利用の可能性についても確認すべきである。
A 登山ルートにおける登下降の標高差と一般的コースタイムの確認及び避難ルートの事前設定は重要である。また通信機材の整備は不可欠であり、同行引率者間における意思疎通のために無免許で使用できる小型無線通信機や外部との連絡のために携帯電話や無線通信機を携行することが望ましい。

B 危急時における連絡体制として会社内に留守本部を設置し、現地からの緊急連絡に対応できる態勢を整えておくべきである。事故発生時は、セルフレスキュー(自力救助)が望ましいが、現場において極めて困難か不可能と判断した場合は、公的あるいは民間の救助組織に現場引率者が救助依頼の第一報をおこなった上、緊密に連携し、速やかに事故者の救助にあたるべきである。


(2)引率者の技量及び経験度合いの確認と管理監督
@引率者のうち主任の者は、登山リーダーとして充分な知識と技術と経験を有し、かつ担当コースについて充分な知識を有していることが必須である。また、引率者としての見識がなければならない。とくに、救急法及び搬出法等基本的なセルフレスキューの知識と技術を有していることが必要であり、緊急事態において通信機器が活用できない場合は、連絡要員としての技量が問われることになる。主任以外の引率者においても、登山に関する知識と技術は必須であり、主任の者に準ずる能力と経験を有していなければならない。

引率者として要求されると考えられる能力を下記に列記する。
(1) 責任感、使命感、倫理観を充分にもち、引率者の役割を理解していること。
(2) 旅行業に関わる法令等を理解していること。
(3) 装備、食糧等準備段階において適切な安全配慮ができること。
(4) 実地において危険の存在を説明し、注意喚起できること。
(5) グループの編成能力があること。
(6) 歩行速度と休息について適切な判断ができること。
(7) 被引率者の歩行能力、技術、健康状態等を的確に把握し、過度に疲労させないこと。
(8) クサリ場、梯子、崩壊地等、危険が予見される場所においてその通過に際し、指導、
助言ができること。
(9) 悪天候や不明瞭な登山道等において危険回避の指導、助言ができること。
(10) 地形図の読図能力があること。
(11) 気象に関する知識があること。
(12) 緊急不時露営の判断ができ、設営技術があること。
(13) 救急救助法の基本的知識と技術があること。
(14) 救助要請の方法、救助隊との連携について理解していること。
(15) 安全配慮義務を理解し、「努力義務」を徹底履行できること。

A取扱会社は、引率者に対して引率時の注意事項の徹底や事後報告の提出等によって引率者を適切に監督し、その技量及び経験度合いについて、登山歴、講習会受講歴、保有資格等の提示など適切な方法によって適正に確認すべきである。


(3)募集段階における適切な情報提供及び危険の告知並びに表記方法
@ 参加者募集にあたり、募集案内書面において当該募集コースの難易度を表記すること。
例えば、登山道の様子や、クサリ場や梯子等の有無、行程中の緩急や所要時間等をより具体的に記載すること。なお、参加者へはガイド・ブック等で事前に予備知識を得るよう促し、個人装備については、具体的なリストを提示し、充分な装備を準備するよう促すこと。さらに一般観光旅行とは明らかな差異がある自然界における行動であることに
触れ、日頃のトレーニングなどによって体力の維持に努めることを参加者に要請すべきである。

A 参加申込書には、最近の登山歴と健康状態(持病、既往症等)について記載させることが望ましい。企画内容によっては、机上講習会を実施し、登山の危険性等、参加にあたっての注意喚起を繰り返すことが重要である。そして、登山行動そのものは、あくまでも自己責任の範疇であることを理解してもらうことが肝要である。
なお、参加者が自己責任の下にツアー登山企画に参加していることを参加者自身において参加者の留守家族に認知せしめることが望ましい。

(4)危急時対応(登山届提出、連絡方法の確保、セルフレスキュー等)

@ ツアー登山の実施にあたっては、必ず事前に所轄警察署ないしは警察本部へ登山届けを提出すること。届けの内容は、入山口と下山口を示した登山ルートと行動日程、主催者名と緊急連絡先及び引率者名、参加者人数等を明記すること。

A 取扱会社と引率責任者間の連絡は可能な限り定時連絡をおこなうこと。引率者は、緊急連絡機器として携帯電話または無線機等を常時携帯すること。

B 引率者に求められる事故対応について、あらかじめ講習等によって、緊急連絡の順序や方法、現場での注意事項、救急法及び搬出法など基本的なセルフレスキューの知識について徹底し、引率者はそれら技術を修得しておくこと。

(5)適切な保険への加入。
@ 参加者へは適切な保険への加入を勧めること。
A 取扱会社として各種保険への加入も検討すべきである。

(6)適切な外部委託の実施
取扱会社が自社社員および自社専任契約スタッフにおいて適切な引率者を充分に配備できない場合で、外部スタッフへの依頼をする場合は、社団法人日本山岳ガイド協会所属の認定ガイドや北海道アウトドアガイド資格等、その地域における公的あるいは準公的資格を有する者を充てることが望ましい。委託にあたっては、ガイドが保有する資格及びその職能範囲等について派遣元機関または企業との間で緊密な協議が必要である。なお、その山域の地元在住のガイドに委託することは、地域特有の情報入手や自然解説の分野においても有意義なことである。

(7)参加者の健康状態把握
参加者には、申込書等において健康状態などを事前に自己申告してもらうことが望ましい。また、出発時において参加者に、病気、けが、飲酒等健康上や安全上の問題があったり、あるいは日程消化に障害があると判断した場合は参加を謝絶することも必要である。
参加者が、行動中に身体健康に異常があると自覚した場合は、速やかに引率者へ申告してもらうようあらかじめ注意喚起しておくべきである。他人の身体健康を外面的に判断することは容易ではない。

第U章 人的対策

(1)引率者の適正配置(ガイド・レシオ)及び現場対応
@ ガイド・レシオは、同行引率者数と参加者数の関係を表したものである。無雪期における標高2千メートル内外の中級山岳及び標高3千メートル内外の山岳において、一般登山道におけるガイド・レシオの一例は、引率者数2名もしくは3名に対して、参加者数は15人から25人を目安とし、複数の引率者が同行することが望ましい。引率者数は、参加者数、及び目的の山岳の状況に応じて決定すべきである。なお、短時間で終了する標高差の小さいコースや低山での日帰りハイキングにおけるガイド・レシオは、この限りではないが、いずれの地域も救急車等緊急車輌の進入すら容易ではない地域であることを充分に勘案し、引率者の配置について考慮すべきである。さらに、取扱会社が自社において設置する基本的なガイド・レシオ基準は、参加者を募集する段階で募集要項等に明示することが望ましい。

A現場における重大な判断は、メンバーが離散するおそれがあるときは、メンバーの離散を避けるため、参加者に委ねず、引率者の責任においておこなうこと。下した判断については、明確に説明し、参加者の同意を得ること。危険地帯における参加者の行動は常に引率者の視野内におくこと。人数確認は随時おこない、とくに休憩の始まりと終わりには徹底し、必要であれば点呼すること。

B参加者が「離団」を希望する場合には、参加者の自由意思を尊重することが重要であるが、離団地点の安全性等についてはよく検討し、離団後の行動は、すべて参加者自身の自己責任によるものであることを明確に説明し、諒承を得ることが必要である。

C参加者の健康状態に留意すること。
参加者自身が身体健康に異常を認めたら、速やかに引率者に申し出ることを参加者に徹底すること。引率者は、行動中も参加者に声をかけ、健康状態把握に努めること。疲労困憊状態の参加者を漫然と歩行させることは、引率者の安全配慮に問題があると言わざるをえない。

(2)引率者の教育
取扱会社は、引率者に対してツアー登山を円滑に実施するため定期的な教育をおこなうべきである。主な内容は、次ぎの項目である。

@ 旅行業法及び旅行業約款に関わること
A 旅程管理に関わること
B 安全登山に関わること
C 自然環境保全に関わること

(3)引率者の健康管理、適切な保険加入

取扱会社は、引率者の健康管理に配意し、ツアー登山の実施にあたっては適切な旅行傷害保険等に加入させなければならない。

第V章 装具対策
(1)引率者が所持する装備
ツアー登山の引率にあたり、コースの状況、日程等により、下記を参考として共同装備を所持することが望ましい。これら共同装備は、日帰り登山であっても、本来最低限所持したい装備である。また、引率者の個人装備及び服装は、参加者より劣っていてはならないし、引率者にふさわしい着装でなくてはならない。

@ 火器(マッチ、ライター及びブタンガス・ストーブ等)
A 小型クッカー(コッフェル等の鍋類)
B 予備水筒と真水、ゴミ持ち帰り袋
C ツエルト
D レスキューシート類
E 救急セット(大型三角巾、弾性包帯、伸縮ネット、保護ガーゼ、ばんそうこう、サポーター、テーピングテープ、消毒薬、鎮痛剤等)
F 携帯電話(さらに複数の無線機があれば引率者間連絡等に有効)
G 予備ヘッドランプ及び予備電池
H 細引き(6ミリ×10メートル程度)または、8ミリロープ20メートル程度
I スリング及びカラビナ
J 地図、磁石、ホイッスル、ストック等
K 非常食類(ハイ・カロリーで食べやすい固形物や流動物)、非常用予備衣類、予備防寒具類(本来の目的以外に緊急搬送時にも有効活用が可能)

(2)取扱会社の管理体制

取扱会社は、引率者が保持すべき共同装備について、引率者に明確な指示を与え、欠落のないことを確認すべきである。個人装備及び着装についても引率者一任は避けるべきである。
また、参加者に対しても、コース内容に応じた装具を所持するよう適切に案内することが肝要であり、集合地において、万一装具が不十分であると、参加者自身が気づいた場合には、参加者から引率者に対して速やかに申告するよう促すべきである。その際、装具が不十分なために安全を確保できないと判断した場合には、参加を謝絶することを考慮すべきである。参加者の装備に関しては行動中にも確認できることであり、このことは引率者の目配りとして基本的なことである。
さらに、行動中何らかの事由により、参加者の装備に欠損が生じた場合には、当該参加者の行動を制限するか、あるいは非常用予備装備を有効活用するなどの措置をとるべきである。

第W章 顧客対策
(1)ツアー内容の適切な案内

第T章−(3)で示した内容に基づき、参加希望者においてコース概要が容易に把握できるよう案内すべきであり、参加希望者の印象と実地に大きな乖離を生じさせないことが肝要である。

(2)苦情に対する対応
苦情処理の第一義的責任は、取扱会社にある。ツアー登山特有の主な注意点は下記のとおり。

@ コース内容や参加者個人のもちもの等についての事前説明は適切だったか。
A 引率者の道案内能力や宿泊施設等での助言指導など力量や言動に問題はなかったか。登山道上における休憩場所の選択や、混雑する山小屋での一般宿泊者との相互協調も重要課題である。これらは、参加者側からの苦情に限らず、一般登山者や山小屋従業員等からの苦情につながることがある。
B 全参加者間における歩行能力や環境順応度に大きな差異はなかったか。
C 引率者の全般的なリーダーシップに過不足はなかったか。
D 山小屋等宿泊施設や交通機関等利用機関のサービス内容や接客態度に問題はなかったか。引率者はその場において適切な対応をしたか。問題の原因が自然環境における不可避の事態であればそのことを明確に説明し、理解を得たか。
E 「山は不便だから」というだけでおわらせていないか。

第X章 環境対策
(1)し尿について
取扱会社は、入山者の増大が自然環境に与える影響についてよく理解すべきである。し尿について直面している問題に関し、注意喚起の項目を下記に示す。

@ し尿問題を平易に説明する。すなわち水質汚染と植生への影響。そして山小屋の負担についても。
A 登山開始前に排泄しておく。行動中はとりあえず我慢。排泄はトイレ施設を利用する。
ルート途上のトイレ施設について事前情報を与える。
B それでも我慢できなければ、登山道を外し、水流から充分離れ、(穴を掘り)排泄する。紙は持ち帰る。携帯トイレの使用も必要に応じて検討する。
C 山小屋のトイレの中には他人の目がないけれどルールを守る。水溶性ペーパーを用い、余計なものは捨てない。有料トイレの趣旨を理解してもらう。
D 山は不便なところだ、ということを充分に理解してもらう。(理解できない人には街に帰ってもらう)

(2)登山道及び山小屋の適切な利用について
登山道は、一般登山者と協調し利用しなくてはならない。大人数が一列縦隊で先頭から最後尾まで途切れなく50メートルもつづいていたら、一般登山者に及ぼす迷惑は計り知れないものになり、ひいては団体登山の批判につながる。大人数であっても適切なガイド・レシオの下、適宜班別行動をおこなうなど的確な対応をとらなければならない。狭い稜線の登山道、切り立った崖っぷち、湿原に敷かれた人工木道など配意すべき個所はどこにでもある。休憩場所の選択も重要だ。狭い登山道を団体が占有し休憩すれば一般登山者は大きな迷惑を蒙ることになり、安全配慮の面からも問題がある。狭い登山道上でしか休憩できなければ、班別に分かれて、離れた地点で休憩し、一般登山者の往来に迷惑がかからないよう充分配意すべきである。宿泊設備として営業しているとはいえ、山小屋の混雑原因は登山者の集中にある。山小屋はその立地条件等から一般旅館業とは明らかに異なっている。完全予約制の下で営業している山小屋を除き、多くの山小屋は宿泊拒否をできない。それは遭難につながるからだ。そのような山小屋の利用には、一定の作法がある。一言で言えば、「旅館」ではない。山小屋での滞在や宿泊には一定の制限があることを、取扱会社と引率者は、参加者へ理解させる義務がある。そして山小屋従業員や一般登山者と協調し、不便を分かち合うことだ。わがままは、他人の楽しみを台無しにする。

また、避難小屋としての役割を果たしているような非営業小屋の利用については、他の登山者に迷惑をかける行為はやめるべきである。例えば、収容人数の半分をしめるような集団での利用や、占有のための要員による前もっての場所取りのような行為は避けなければならない。このような避難小屋利用を念頭においた運行に際しては、参加者及び引率者全員を収容できるだけの野営装備を持参し、小屋の利用を前提にしなくても運行できるよう配意すべきである。

(3)訪問地の環境保全の徹底と地域との関係
「とっていいのは、写真だけ、残していいのは、足跡だけ」
「エコ・ツーリズム」と呼ばれる旅行形態には大きな可能性がある。その可能性を引き出すことにより、地域活性化にもつなげることができる。環境保全活動とあいまって、健全な旅行企画を生み出す源をその地域から見つけ出す視点も必要である。地域の人々にとっては裏山であっても、その里山には豊富な素材が埋もれている可能性がある。

第Y章 事故対策
(1)事故発生時の対策と注意点及び事故原因究明活動の徹底
@ 関係部署等社内外の緊急連絡網を整備し、責任者は常時リストを携帯しているか。
A 参加者名簿や参加者の留守宅等緊急連絡先など、運行中のツアー情報をただちに提示できるか。参加者の留守家族が当該コースへの本人参加を認知していることが望ましい。
B 所轄警察または警察本部へ登山届は提出されているか。
C 救急救助を第一義に考え、必要なことを速やかに実行すること。引率者にすべてを任せず取扱会社として主導的立場で行動することが肝要である。
D 事故状況、救急救助状況を時系列にそって記述しておくこと。
E 現地引率者との連絡方法を確保し、定時連絡をおこなうこと。
F 遭難者家族への連絡は責任者から速やかにおこなうこと。事実を正確に伝えること。
G 救急救助活動終了後速やかに報告書を作成し、事故原因究明活動をおこなうこと。たいていの場合、遭難事故原因は間接要因と直接要因に分かれるが、それらを解明し、事故予防に取り組むべきである。
H 「日本山岳レスキュー協議会」が中心となってとりまとめている「山岳遭難事故調査」は、様々な遭難データを基に、遭難の原因、特徴、傾向などを明らかにし、ひいては遭難予防の対策に役立てる目的で実施されている調査である。ツアー登山における事故原因調査と報告についても、同協議会への協力が望ましい。

(2)法的対応
「責任」とは「法的責任」であり、道義的あるいは社会的責任とは明らかに異質なものである。登山における法的責任について法律専門家が述べた文献は多くない。最近では月刊「岳人」(東京新聞出版局)平成15年10月号に溝手康史弁護士がわかりやすく説明した文章がある。文末には編集部がまとめた参考文献の紹介がある。また、月刊「山と溪谷」(山と溪谷社)平成16年6月号には、田村護弁護士がまとめたツアー登山遭難事故の検証記事と判例の紹介がある。
ツアー登山における事故に関して言えば、法的対応を考える前に、取扱会社及び引率者としてまずやらねばならない行為がある。それは「努力義務」を果たすことではないだろうか。それは、企画立案段階からすでに求められていることでもある。
「ツアー登山造成」の認識から「登山」が欠落し、「ツアー造成」になっていないか。取扱会社及び引率者と参加者相互において「危険の存在」をつよく認識することこそ山岳遭難事故を予防することになる。「ケガと弁当は自分持ち」とは言うけれど、この一言で片づけられるほど、世間は甘くないのである。以上

注)本ガイドラインは、平成21年12月1日からの指針とする。
ツアー登山運行ガイドライン(社)日本旅行業協会 (平成21 年9 月1 日作成)

ツアー登山 ガイド・レシオ

北海道でのツアー登山の遭難事故を教訓に
社団法人 日本旅行業協会は ガイド・レシオを見直した。


社団法人 日本旅行業協会

コース難易度(コース・グレード)及び引率者比率(ガイド・レシオ)

下表は、無雪期における標高2千メートル内外の中級山岳及び標高3千メートル内外の山岳を対象として設定した、「コース難易度に対する引率者比率の目安」である。

引率者配置の内訳

難易度数 コース難易度の内容 参加者 引率者 (ガイドレシオ)
1 往復コース

1日の歩行時間は3〜4時間程度。

登山道は明瞭で、緩急は少なく、幅員も充分にある。転滑落の危険箇所が少ない。
20人〜25人
(最大30人)
2名以上 (1:10〜1:12 最大1:15)
2 往復、周回、縦走コース

1日の歩行時間は5〜6時間程度。

登山道は比較的明瞭で、緩急はあるが、幅員もある。転滑落の危険箇所が少ない。
20人〜25人 引率者2名〜3名以上
(1:7〜1:12)
3 往復、周回、縦走コース。

1日の歩行時間は6〜7時間程度。

登山道は比較的明瞭で、緩急があり、幅員が小さい箇所がある。転滑落の危険箇所が部分的にあり、一部に梯子やクサリ場がある。
18人〜22人 2名〜3名以上
(1:6〜1:11)
4 往復、周回、縦走コース。

1日の歩行時間は6〜8時間程度。

登山道はやや明瞭を欠く部分があり、緩急が大きく、幅員も小さく、一部に梯子やクサリ場がある。転滑落の危険箇所が多い。
15人〜20人 2名〜3名以上
(1:5〜1:10)
5 往復、周回、縦走コース。

1日の歩行時間は6〜8時間程度。

登山道はやや明瞭を欠く部分があり、緩急が極めて大きく、幅員も小さく、梯子やクサリ場が連続している。転滑落の危険箇所が頻繁にある。
15人〜20人 3名〜4名以上
(1:4〜1:6)

ガイド・レシオ
(「引率者配置の内訳」欄の括弧内対比数字は、引率者1名に対する被引率者の人数を示す)
(注釈)
1.本表は、会員会社が定めるべきガイドレシオ決定のための参考資料である。
2. 本表の難易度1から5までにあたらないコース内容の引率者配置については取扱会
社において自主的に決定する。
3.ガイドライン本文第U章(1)@に明記する「短時間で終了する標高差の小さいコースや低山での日帰りハイキング」はこの参考表には該当しない。ただし、いずれも緊急車両等が容易に進入できる地域ではないことを充分に勘案し安全対策を講ずるべきである。

注)本ガイド・レシオは、平成21年12月1日からの指針とする。
(社)日本旅行業協会

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旅行業ツアー登山協議会は解散
(社)日本旅行業協会、(社)全国旅行業協会それぞれでツアー登山関係の部会等を設置し、旅行業界全体で対応すべき課題は連絡会を設けて対応することになりました。


ツアー登山 関連URLなど


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★旅行業法

★平成21年3月4日「旅行業ツアー登山協議会」解散
(社)日本旅行業協会HP http://www.jata-net.or.jp/osusume/climb/
平成21年4月から(社)日本旅行業協会、(社)全国旅行業協会それぞれでツアー登山関係の部会等を設置し、旅行業界全体で対応すべき課題は連絡会を設けて対応

「JATA (日本旅行業協会)とANTA(全国旅行業協会)でそれぞれツアー登山を担当する部会等を設置。そのうえで両団体の連絡会を設け、旅行業全体で取組む事項は共同で対応する。」

★ツアー登山中の事故についての法的責任について http://homepage3.nifty.com/tozanzikosekinin/

★「旅行会社主催の有料登山ツアーに参加したツアー客2名が凍死した事故につき,同行添乗員に業務上の過失を認めた事例H16. 3.17 札幌地方裁判所 平成14(わ)184 判決

★「---民事訴訟の和解が大阪地裁(本多俊雄裁判長)が成立した。和解内容は、ツアー会社側が謝罪して和解金7150万円を支払う羊蹄山の道標の整備用に和解金の一部を寄付するという。」

★オーバーユース対策


2009年8月31日 第1版制作
http://www.lnt.org/

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