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低視程の牛の背


低視程の牛の背


平成20年2月2日
天狗峠から天狗塚の登りにかかる前には天狗塚の山容が見えたのに、天狗塚山
頂ではガスと風雪で何も見えなかった。



天狗塚から牛の背へむかうと、視界は更に落ちて いいときでも視程100m以下
で 時折 極端に悪くなり、一面真っ白で、天と地がわからない。
過去 何度も 経験しているからか、 あるいは鈍感になっているのか、とり
たてて焦ることもなく そのまま 牛の背三角点へ向かう。

牛の背の山稜が だだっ広くて 雪に覆われ、進むべき 目標となる 多くの
灌木 岩など すっかり雪に埋まっていて低視程ではルートファインディング
に かなり苦労する。

方角は磁石で大体のところ出るが、辛うじて、 目印となる 灌木 岩がほん
の少しだけ わずかに残り、あとは 雪面の 傾きと向きなど 足下から得ら
れる情報だけが頼りだ。

こうして獲られた 数少ない視覚情報などを 過去180回の登頂経験の際の地
形の記憶とジグゾーパズルのように照合させ、謎解きしながら、広い尾根を牛
の背の三角点へ向かっていく。しかし雪は無雪期の地形を大きく変えていて 
パズルは難しくなる一方だ。

大自然の奥深さに比べ180回というのは 牛の背を知り尽くすには 全く 
ほど遠いもので、まだまだ 知らないことばかりだ。

実際 自分から好んで山にきているのに、こうした状況を「ホワイトアウト」
と言い訳したくない。

世の中 一寸先は 闇だと いわれる。
山の 低視程より もっと わからないことが 世間には 沢山ある。

難しい人間社会のことはさておき、春先の瀬戸内海の霧だって、閉じこめられ
た船からすると、全く先が見えないのは山と同じでも、船底一枚下は地獄とい
うように危険度は陸より海の方がはるかに高い。時には海難事故もおきるが 
多くの場合、 こうした 霧の中でも 沈着冷静な船長の判断で 海難事故に
遭わず無事 安全運航している。

空を飛ぶ 飛行機の方が 地に足が全く つかないのでずっと大変だ。第一 
スピードが違う。雲の中に入れば 全く先は 見えない 。だが それでも飛
行機は きちんと 安全に飛んでいる。

海や 空に比べれば 地に足がついた 山歩きなど 低視程などと 贅沢を言
っていられない。先が わからないからこそ面白いのだろう。先がわからない
ところに好きこのんで来ているのに 「ホワイトアウト」などと言い訳する必
要もないと思う。

勿論 過去 牛の背180回の経験のなかには 積雪期、今回以上の 厳しい低
視程に何度も出会ってきた。そして その都度 何とか 厳しい状況を なん
とか乗り切ってきたが、ある冬 文字通り、牛の背彷徨となってしまった痛い
経験も 過去にはあった。

そもそも そのときの風雪の低視程の牛の背の体験が、その後の GPSを山で
携帯するきっかけとなった。

2月2日 も念のためのGPS の携行していてザックの天蓋内には 出発時点でス
イッチを入れてあるGPSが メイン機と サブ機の2台、あり、どちらも常時
トラックログを取得している。

万が一 どうしようもない窮地に陥ったときは GPSの出番となるが、一番 
大事なことは いわば もしもの時の保険のようなもので、これがあれば ま
ず低視程時でも 大体において地に足がついた状態で 常に安心感を与えてく
れるというものなのだ。

牛の背三角点に向けて 歩いていくと 突然 足下がスパッと1mくらい滑り
落ちる。こんな平たいところでも 雪で 段差ができるのだった。

天地の境がわからないから 雪が張り出たところの段差を踏み外したからであ
った。視程が落ち 足下も確かでなくなってきた。

無雪期の地形は 大雪で部分的に変わっている。大雪の年のことだと 大抵 
雪の張り出しが 大きく 窪地を変えてしまったりしている。

 三角点はこの付近のほぼ一番高くなったところの すぐそばにある。低視程
時の登りでは足下の 傾斜角の情報を大切にして、すこしでも高いところ 高
いところへ向かっていけば いずれ 最高地点へ到達できる。しかし下りは全
く違う。

慎重に歩いていくと どうやら 一番高い付近にきて雪面に少し見える岩で三
角点近くを確信するが、三角点は完全に雪の下だった。風雪で視界は効かず。
天地の境が全く見えない。


三角点付近の岩が ほんの少し雪面に見える。

いよいよ ここからの下降が 最難関だ。多くの道迷い遭難は 山頂からの下
降、それも 下りはじめで まず始まっている。

牛の背では 三角点から 標高差にして150m位 下がるとようやく 尾根
の形が出てきて 尾根を読み取ることができるが それまでが だだっひろく
 どこでも歩ける 幅広い状態で 地形が読みにくく 難儀なのだ。

地図と磁石で 磁方位を慎重に割り出し 意を決し その方向へ歩み出す。

20m位進んで 一寸 北よりだと直感的に 感じ すぐ もとに戻る。こう
したとき 少しでも疑念があるときは 戻るのが原則だし 途中で下手にトラ
バースせず 素直に元に戻るのが、どんな場合でも絶対に正解だ。この引き返
す わずかの間にトレースは殆ど消えかかっていた。やはり ただならぬ 風
雪の天候である。

もう一度 三角点付近に戻って 時計を見て 高度計をチェック。 

時間は15時半を過ぎ ここでまた一度 間違えると確実に 30分以上はロ
スして 暗闇がくるかもしれない。残り時間を考え、ついにGPSの出番とした。

GPSを今日の出発時から初めて ザック天蓋から取り出し 画面を見る。
 GPSの画面も 三角点付近にいることを示していた。

今まで ごく限られた情報を元に過去の地形とか 地表の岩 灌木 などの記
憶と照合して 総合判断し ここが三角点だと 判断していたが、その推測に
間違いはなかった。

GPSは現在地を示してくれた。もうそれだけで十分な情報であった。

よく 地図 磁石を使えというが、周りに特徴ある情報が得られれば現在地が
地図からすぐ類推できるが、低視程時など 現在地がわからぬままでは現在地
を誤って類推して 誤った磁方位を選択して余計深みに入ってしまうことが多
い。

GPSの威力は 自分で思っていたことが 正しいことだと 確信させてくれる
こと。いわば検証することができることだ。

「現在地がここだ。」と100%確信を持てば すべての不安や恐怖はなくな
り 落ち着いて 磁方位をきちんと読み取れ その方向に進むことができた。
精神的な 落ち着きを常に持つことの大事さを、今度の牛の背でまた再認識で
きた。

三角点から標高差100mくらい下がると 視界が一気に効きだした。


1640mまで下って いつもの光景に出会う。


樹林帯が見えてきた。

平成20年2月2日


GPS使用に伴って 新たな 危険性

三段山様 が「山と渓谷2月号」バックカントリー2008「雪崩リスクを避けるために」  と題する 記事を書かれていた。

「ルートナビゲーションの道具がコンパスやデポ旗・赤テープからGPSへと変わり、それまでのデポ旗・赤テープを設置しながら尾根を登り、回収しながら尾根を滑るというスタイルから、往路にとらわれずに沢状の斜面を自由に滑るスタイルに変化した。

またGPSにより、天候が行動に与える影響が少なくなったため、ウィンドスラブが発達しやすい悪天候下でも行動して、雪崩に遭遇する機会が増えた。」

「一連のテクノロジーの普及がBCスキーの快適性に寄与した反面、雪崩リスクを高めることになってしまった。」


GPSの使用が、また新たな 危険の芽を生み出すことになるということで、大変興味深い記事であった。

悪天候のなかでの行動を慎むのが本来で、GPSの使用を前提にして、無闇に 悪天候のなか リスクを冒していいということではない。
2月2日の牛の背でGPSの使用は 悪天候の行動として反省すべきであったようだ。

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2008年2月4日 第1版制作

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